電気工事が成り立つまで
昔の人が「身の周りの電気的事象に対する疑問」を抱き、時代を経て、数学をいわば言語とする物理学(電磁気学)を生み出しました。その後、「なんとかして、この電気エネルギーを生活に利用できないだろうか?」とのチャレンジが繰り返しなされ、結果として理学的側面に工学的側面をも併せ持つ電気工学が構築され、そして、「産業としての電気工事」が成り立つようになりました。
電気工事は、工事作業にのみ注視すれば技能的作業(手先の器用な作業)にしか見えないので、私自身の経験からは、「単なるブルーワーカーにしか見られていないようだ」と感じることも少なくなく、今後も同様に感じることはあるでしょう。しかし、工事完成後の安全性と利便性を図るためには、上記の歴史から自明なように、理学上工学上の裏付け、つまり、「数学、物理学、電気工学に基づく裏付け」が必要不可欠です。
電気工事業界は、産業界の一部ですから、当該業界に属さない一般の方が、電気工事をはじめ、電気工学、物理学、数学に慣れ親しむ必要は、全くありません。しかしながら、そうであっても、「電気工事屋さんといっても、究極的には、難しい数学までも使う人たちなんだろうなぁ」とは気付いてほしいところです。実際、工業高校電気科で使用されている教科書の内容は、大学講義レベルにも多少踏み込んでいます。
このような私の見解が、独自性の高い偏ったものではないことが、次の事実で明らかになります。業界有力会社59社を特別会員に持つ一般社団法人配管技術研究協会のホームページの「配管技術社のための和・洋参考書100冊」では、『配管設計/技術は、流体工学、熱力学、材料/構造力学、化学工学、金属冶金学、物理学等の知識とその応用のみならず、電気、計装、土木、建築、に対する知見も有している必要がある。即ち、配管は異なる専門領域の知識も必要とする、学際的(lnterdisciplinary)色彩が強い』として、各種専門書等を紹介しています。
確度ある電気工事を成立させるために不可欠な能力
①電気工学、物理学、数学に係る技術的学術的能力(∵設計&安全性・利便性)
②関連法規に係る解釈・事実認定能力(∵法規適合性)
③一定程度の手作業能力及び体力(∵実践)
結局、これらの能力が電気工事において不可欠なものとなることが理解されます。実際、今もなお弊社へ管理点検や工事を発注しているお客様の多くが、①②③の全てを意識されているようです。
電気工事で不可欠な数学の範囲
残念なことに既に絶版したものではありますが、「現代電気工学講座 電気数学I、II、III」(オーム社)をとりあげてみましょう。なぜなら、この三巻は、「電気数学[I]」(服部・宮島共著、昭晃堂)の「まえがき」によると、名古屋大学の電気系学科における12単位の電気数学の教科書として使用されていたからです(なお、私の母校では、当時において(微分積分学の4単位を除き)10単位でした)。
目次によれば、次の内容を含んでいます。
第1編 微分積分学
第2編 ベクトルと行列
第3編 複素関数
第4編 積分変換
第5編 確率過程
第6編 関数方程式(常微分方程式、偏微分方程式、変分法、積分方程式)
第7編 特殊関数
第8編 固有値問題
第9編 論理数学
第10編 数値計算法
一般の方であれば、「難しそうな数学、しかも広範囲に及んでいる」という事実に、多かれ少なかれ驚かれるでしょう。しかし、これらが「電気工学に役立つ数学的手法の予備知識」であることには違いないのです。流体力学で高名な故・今井功博士も、ある書籍に対し「数学は理工学の単なる道具ではない。その考え方そのものに理工学の神髄が宿っている」との推薦文を送っています。
現場における電気工事は、電気工学を礎にもつものですから、電気工学上の理論の裏付けをもってして、確度ある技術となるものであり、その電気工学の習得の前提として、電気数学が必要になるわけです。